『季刊あおもりのき 第8号 別冊2022ねぶた・ねぷた』の紹介とともに。 ねぶた・ねぷたの意義を考える。
こんにちは。ものの芽舎の佐藤あい佳と申します。以前このブログでは「菅江真澄と白神山地 ~菊池正浩著『菅江真澄 津軽隠れ里紀行』より~」という記事を書かせていただきました。今回、2回目の執筆です。
ものの芽舎では、『季刊あおもりのき』というタウン誌を春・夏・秋・冬に、また、別冊として「ねぶた・ねぷた」特集号を年1回発行しています。そして、今年7月下旬に発行した今年の別冊(『季刊あおもりのき』第8号)には、白神共生機構代表・山下祐介先生のエッセイも掲載させていただきました。
今回のブログでは、先生のエッセイを紹介しつつ、取材を通じて見えてきた今日のねぶた、ねぷたが抱える問題や、今後の可能性についてお話ししたいと思います。
■山下祐介先生のエッセイ「新しいもの、古いもの」
第8号に収録した、山下先生のエッセイのタイトルは、「新しいもの、古いもの」。ねぶた・ねぷたの起源として語られている、「坂上田村麻呂がエミシ討伐の際に作った灯籠をはじまりとする」という説を、「根の葉のない作り話」として一度は否定した上で、京から伝えられた盆灯籠の文化を、津軽独自の解釈により変容させ再構築してきたものが、ねぶた・ねぷたの在り方そのものであると述べています。
起源については諸説あり、先生のおっしゃる通り、坂上田村麻呂の伝説は、今日では否定されつつあります。しかしそれを単に誤りとするのではなく、そうした説を生み出してきた「津軽人」に注目しているところに、面白さを感じました。また、エッセイの中に登場する「文化は生き物である」「津軽といういのちの躍動」などの表現も、魅力的であると感じました。
『季刊あおもりのき 第8号別冊 2022ねぶた・ねぷた――さぁ祭りだ!』より
■七夕行事を起源に。地域の人が守り伝えてきたねぶたとねぷた
さて、今日、ねぶた・ねぷたの起源として有力だとされているのは、元は農事の眠気を流す「眠り流し」であり、それが穢れや病厄などを川に流す七夕行事として発展した、という説です。今日の「青森ねぶた祭」「弘前ねぷたまつり」などは、観光客が大勢訪れる規模の大きいイベントとなっていますが、元々は町内など小さな単位で行われてきたものでした。今でも、弘前や黒石などをはじめ、津軽地域の各市町村で町内単位のねぷたが制作・運行されていますし、青森市でも、青森ねぶた祭とは別に、小さな地域単位でのねぶたが制作・運行されています。
これらの地域単位のねぶた、ねぷたは、「祢ふた」として享保年間に文献に登場して以来、為政者への反抗を伴いながら受け継がれてきました。時には野蛮な風俗として禁止されたこともありましたが、処分を恐れることなく運行され続け、疫病や戦争による中断を挟みながらも、今日まで伝えられてきたのです。
ただし、新型コロナウイルス感染症による2020年、21年の祭りの中止は、こうした伝統に、影を落としています。青森、弘前、五所川原、黒石いずれも、祭りへの参加団体が、大幅に減少しています。
青森市の場合、深刻なのは、町内会などの地域単位で運行されてきたねぶたの、大幅な減少です。コロナ以前には70団体運行されてきたものが、今年は33団体となりました。この中には今年で運行終了となる団体も含まれています。
元々こうした地域ねぶたは、資金調達の難しさや後継者不足などの悩みを抱えていました。コロナは、そうした地域の問題を一気に噴出させてしまったのです。
■注目されつつある地域ねぶた
しかし、2年間の休止を挟んで今、地域単位のねぶた・ねぷたは注目されつつあり、地元紙やローカル番組でもよく取り上げられるようになりました。
それは、その数が極端に減少してきたから、ということもあると思いますが、それ以上に、コロナ下で「祭りの本質」や「意義」を多くの人が見つめた時、その視線の先にあったものが、どんな社会状況にも負けずに続けられてきたこうした地域ねぶただったからではないでしょうか。
祭りが中止になった初年度(2020年)、弘前市内で運行自粛が推奨されていた中で、団体自ら感染対策マニュアルを作成し、感染予防を徹底しながら弘前市で唯一、公式運行を成し遂げた「東地区町会連合会ねぷた」。5年前に地域で中断されていたねぶた運行を復活させ、昔ながらの竹製ねぶたを制作している青森市の「高田地区町連合町会」など、他にも多くの地域団体が、“自分たちの祭り”を守ろうと、試行錯誤してきました。そしてこれらの運行には、子どもたちも深く関わっています。
『季刊あおもりのき 第5号別冊 ねぶた祭り2021――来夏に願いを』より
■ねぶた・ねぷたの意義を見つめて
これまで、コロナ下の運行を、「密になるから」という理由で批判する人の意見を、度々目にしてきました。さらに、今年の祭りを終えた今、祭りのせいで感染が拡大したという意見もあります。(ただし、本当に祭りそのもので感染したのかどうかは疑問です。例えば、祭りに乗じた会合・飲食などで感染したものとは、分けて考える必要があると思います)
しかし、これらは単なる人が集まるイベントではありません。地域に暮らす私たちのための、かけがえのない祭りなのです。感染対策はもちろん重要ですが、仮に中止にするとしても、そのことが地域の未来にどのような影響を及ぼすのか。開催できないにしても、代わりに何ができるのか、というところまで踏み込んだ議論が必要だと思います。
ねぶた、ねぷたの意義を見つめ、いかにして、その本質的な部分をこれからに繋いでいくか。私たちも編集・出版を通じてその問いに、今後も向き合っていきたいと考えています。
2022年度「松原子供ねぶた会」の運行の様子
<書籍情報>
『季刊あおもりのき 第8号別冊 2022ねぶた・ねぷた――さぁ祭りだ!』(Amazon)
価格:770円(税込)
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